写真に撮られると魂を吸われるというインディアンの信仰がかつてあった。だが、写真の発明当時に用いられた技術の一連の流れやその中で用いられた有害物質を見ていると、魂の危険にさらされているのはむしろ撮影者のほうではないかと思える。じっさい、発明当時に用いられた「ダゲレオタイプ」の発明者であるダゲールは、水銀の蒸気を大量に吸い込んでいたらしい。そして晩年には世界の終末が近いという考えに苛まれていたようだ。
写真の発明の地であるフランスにやってきた私は、その「ダゲレオタイプ」の作り方を見ようと思い、ダゲレオティピストのもとを訪れた。ダゲレオタイプは、材料が有害であることもあって、実践している人は世界でも少ない。その発明者・ダゲールの名を冠した通りに住んでいるのが、映画監督のアニエス・ヴァルダで、じっさいその通りを舞台に同名の映画を撮っている。
私はダゲレオティピストを連れてダゲール通りへ行き、『ダゲレオタイプ』の監督アニエス・ヴァルダをダゲレオタイプで撮ることで、あるひとつの円環構造をつくろうと考えた。だが、それは写真の起源をめぐる冒険の始まりでしかなかった。
出展作品:《ザ・パーフェクト》 映像・11分、ダゲレオタイプ、およびコロンビアで制作された木版ポスター
村上華子
1984年生まれ、パリ在住。
東京大学卒業後、東京芸術大学大学院を経て2011年に渡欧、ポーラ美術振興財団の助成によりパリで制作活動をはじめた。
主な展示に、ギャラリーαM(東京)、国際芸術センター青森、トーキョーワンダーサイトなど。今年4月にタカ・イシイ・ギャラリー東京で個展、その後アトリエ・モンディアル(スイス)での滞在制作を経てアート・バーゼルに参加予定。
今回の展示で上映される映像は、ル・フレノワ:フランス国立現代アートスタジオで制作された。