森口邦彦氏は、友禅作家であり重要無形文化財保持者(人間国宝)であった故・森口華弘氏(1909~2008)の次男として1941年京都に生まれました。京都市立美術大学(現・京都市立芸術大学)日本画科を1963年に卒業し、22歳でフランスに留学します。パリ国立高等装飾美術学校にてグラフィック・デザインを学び、帰国後は父・森口華弘の工房に入って伝統的な技法を習得しつつ、幾何学文様を用いた斬新な意匠と表現による作品で友禅の世界に新生面を拓き、2007年に重要無形文化財「友禅」の保持者に認定され今日に至ります。

本展では、記念すべき最初の作品「光」(1967年)から、初公開となる最新作「雪舞」(2016年)を含む26点の着物と友禅技法による紙本着色の絵画作品11点を一同に展示し、50年にわたる森口邦彦氏の表現世界を総合的に紹介します。また、伝統工芸技術の展開例として、2014年、森口氏が手掛けた百貨店・三越の新たなショッピングバッグのためのデザイン展開図と2015~2016年の国立セーブル陶磁器製作所とのコラボレーションによるコーヒーカップも合わせて展示します。

 

フランス留学中に森口邦彦氏は、批評家ガエタン・ピコン、画家バルチュスなどフランスの文化人の知遇を得ます。パリ国立高等装飾美術学校を優秀な成績で卒業後、将来の方向について決めかねていた森口に「君の身近にある友禅というすばらしい伝統を途絶えさせてはいけない。それを今に生かすのが君たち若者の責務だ」とバルチュスに諭され、1966年12月末帰国します。

1967年1月、江戸時代から伝わる撒き糊(まきのり)技法と漆芸の蒔絵技法に着想を得て独自の「蒔糊技法」を創案した父のもとで森口邦彦氏は修行をはじめ、研鑽を積みます。この高度な友禅染めの技法を習得し、パリで学んだグラフィック・デザインを基盤に幾何学文様を構成して革新的な友禅染めの作品を創作し、日本国内、海外でも高い評価を受けています。森口氏の作品は、日本では文化庁、国・公立の美術館による所蔵をはじめ、海外ではヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、メトロポリタン美術館、ロサンゼルスカウンティ美術館等にも所蔵されています。

伝統工芸の技を継承する環境に育った一人のアーティストに、異文化圏での学びと体験がどのように伝統の中の革新として結実したかを、上記の展示を通して展観します。

【関連事業】
► 11月16日(水)18時30分 小ホール 森口邦彦氏による講演
► 12月1日(木)18時30分 小ホール  
マルク・プチジャン制作 ドキュメンタリー「Trésor vivant」上映会 作家と監督出席