「信の感情」は、ミニマルかつコンセプチュアルな作品で国際的な評価を得ているアーティスト、内藤礼による新作インスタレーションです。貴重な個展のために作られた、心を揺さぶるこの作品が、2017年1月から3月までフランス、パリ日本文化会館で展示されます。

内藤が初めて「原爆」の認識にかかわる作品を発表したのは2013年、彼女の生まれ故郷の広島でした。そこで開催された展覧会に出品された《タマ/アニマ(わたしに息を吹きかけてください)》は、慰霊の、そして地上の生のための祈りの空間です。
現代日本の創造性に焦点を当てる展覧会シリーズ「トランスフィア(超域)」の第3弾となる「信の感情」は、広島で展示された祈りの空間をさらに純化し、鑑賞者はその新たなインスタレーションの場でより豊かな受容へと導かれるでしょう。
広島の原子爆弾とそれがもたらした惨禍を証言する、被爆し溶けたガラス瓶が台座に置かれ、《ひと》と題された人間の形をした小さな彫刻がこれらの瓶に寄り添います。彼らは希望の象徴として存在しています。そして人間の脆さを隠さず、その生存を強調し、記憶のための新たな場をつくりだします。言葉では説明しがたいものを表わす内藤の作品を前に、鑑賞者は深い思考へと誘われるにちがいありません。


内藤は2011年3月11日の東日本大地震と福島の原子力発電所事故以降に、作品のあり方を大きく変えたアーティストの一人です。初期のころから、自らを見つめ、人間の生のあり方について考察し続けてきました。それは1997年のヴェネチアビエンナーレで発表された、テントのような空間の中に観客が一人ずつ入る《地上にひとつの場所を》にも表わされています。そのインスタレーションでは、静黙に包まれながら、床に置かれた小さく壊れやすいオブジェを鑑賞することができます。広島の大惨事は長い間彼女の心の奥深くにとどめられていましたが、3.11の震災と津波の衝撃の後、放射能問題が徐々に明らかになっていくとともに、内藤の意識に蘇りました。そして彼女は改めて世界の行く末と人間のあり方へと思いをはせ、思索をさらに深めたのです。

日本で鑑賞可能な高く評価されている内藤の二つの作品は、瀬戸内海にある直島と豊島に常設展示されている2つのインスタレーションです。豊島美術館に展示されている《母型》は、2つの開口部のある驚異的なコンクリートの建物に設置されており、雨や日光、周囲に生息する生き物などがそこから内部に入りこみます。館内に足を進めると、詩的で息を飲むような光景に遭遇します。こまやかな水滴が床から現れ、細い水流をなし、おもいがけない舞踏のような動きを見せ、そして消えてゆくのです。この 《母型》は、 中村佑子監督が2015年に公開した映画『あえかなる部屋 内藤礼と、光たち』からの抜粋映像としてパリ日本文化会館での展覧会の入り口で上映、紹介します。

キュレーター:岡部あおみパリ日本文化会館アーティスティックディレクター〈展示部門〉

【関連事業】
► 2017年1月24日(火)18時 小ホール 「内藤礼 アーティストトーク」
内藤礼が90年代の初期の作品からパリ日本文化会館で展示される新作まで、自身の作品について岡部あおみの質問に答えつつ語ります。その後、ポンピドゥーセンター・フランス国立近代美術館館長で内藤作品のファンであるベルナール・ブリステンをお招きし、内藤との対談を行います。 モデレーター:岡部あおみ

► 2017年2月2日(木)18時 小ホール  「ロール・アドラー 講演会」
「この世界における唯一の力は純粋であることである」(シモーヌ・ヴェイユ)
ロール・アドラーは、ハンナ・アーレント、フランソワーズ・ジルー、そして内藤礼の初期作品に強い影響を与えたシモーヌ・ヴェイユなど、歴史に名を残した女性に関する多くのエッセイや伝記を執筆しています。若くして亡くなったフランスの哲学者シモーヌ・ヴェイユは、純粋さの追求により一層強化された揺ぎない意志を持っていました。その姿は内藤礼の芸術的探究の姿勢と重なります。ロール・アドラーが、ヴェイユと内藤の作品の関連性や類似性について解き明かします。 司会:岡部あおみ

► 2017年2月7日(火)18時 小ホール  「川俣正とクレリア・ゼルニックによる講演会」
アーティスト・川俣正は、ポンピドゥーセンター・メスにて2011年の津波とそれにより亡くなった方へのオマージュである作品《Under The Water》を今年発表しました。自身と内藤のインスタレーションとの相違点や近似性について話します。
クレリア・ゼルニックはパリ国立高等美術学校で哲学を教えています。彼女は現代日本の美学、特に内藤礼の作品を長年撮影している畠山直哉の写真作品を研究しています。

※お席に限りがございます。各イベントの30日前からwww.mcjp.frにてご予約の受付を開始いたします。