本展は、植物染料による独自の芸術的織物と文筆作品でも知られる染織作家、紬(つむぎ)織りの人間国宝である志村ふくみと、その薫陶を受け、藍染めに新たな世界を探る志村洋子の作品約40点を紹介します。

会場では、染織表現の実践と東西の色彩研究の過程で著わされた本から抜粋した文章と思索の言葉を作品鑑賞への導入として掲示します。また、染色の素材となる植物や染められた糸、染織の工程を説明したパネルの展示により、自然界の命を映しだす創作の過程を紹介します。

志村ふくみは1924年、滋賀県近江八幡市に生まれました。柳宗悦の「民藝運動」の思想に触れ、1955年に染 織の道を志し、日本の農家の女性たちが普段着の着物として織ってきた「紬(つむぎ)」を対象に、自ら草木から染め出した多彩な色糸を独自の感性によって織 り込み、紬織り着物に新しい美の世界を構築しました。
その特筆すべき感性と優れた染織技術により、1990年に紬織りの重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定され、90歳になる今も、自然とその色の無限の多様性に魅了され、その思いを作品の中に表現し続けています。

パリ日本文化会館における本展が、志村ふくみと実の娘である志村洋子のフランスでは初めての展覧会となります。二人の作家にとって、染織は単なる芸術活動ではなく、何よりも自然と私たち人間との共生のための思索であり探求であるのです。

日本人の美意識の中で色彩感覚は大切で、江戸時代に流行した「四十八茶百鼠」という表現にも表れています。そして、志村ふくみの創作においても、この日本独自の色彩文化が継承され、色の選択に細心の注意が払われています。京都の緑に囲まれた工房周辺の丘で、紫根、茜、蘇芳、くちなし、玉ねぎなど、多種多様の植物から染料を用意します。

志村ふくみは、紬織り着物に洗練された抒情性を与え、芸術にまで発展させました。紬は、長い間、農婦が織る庶民の普段着との布でしかなく、古くから伝わる縞や絣など平凡でありふれた文様に限られていたため、友禅染のような芸術性を備えたものにはならないと思われていました。

染織の道に進み、母親のもとで学び始めて3年で、第5回日本伝統工芸展に紬織着物を出品し奨励賞を受賞します。独創性と色彩のハーモニーからなる美的感性によって、紬織を変革しました。
日本の古典的色彩論の研究に始まり、1980年代にはゲーテとルドルフ・シュタイナーの色彩論の研究へと至り、洋の東西を問わず色彩論を究め「かつて一色に十年と思っていたが、この頃は一色一生と思っている。」と語っています。

志村ふくみにとって、染織はひとつの哲学であり、「色には色ではない宇宙の神秘がある」と述べています。それ は、私たちが目にする色彩はそのままの色素としては抽出できないからです。植物による染色をとおして、自然の内包する無限の世界を垣間見て、生命の神秘、 自然の中における人間の位置ついての理解に至ります。
1990年に洋子と共に創設した工房で、月齢を示す暦に基づき四季の移り変わりを見つめながら創作を続けています。

ノーベル賞作家、川端康成は1970年にある図録の中で、志村ふくみについて『優雅で微妙な配色にも、自然にたいする謙虚で素直な心が通っている。』と述べています。

【関連企画】

► 2014年12月12日(金)18時半~ 志村ふくみ氏、洋子氏による講演会
► 2014年12月13日(土)15時~ 志村ふくみ氏、洋子氏によるワークショップ