正倉院に眠る財宝は年に一度、秋に奈良国立博物館で行われる「正倉院宝物展」の際に唯一私たちの前に姿を現します。

10月23日から11月11日まで開催される今年度の展示を前に、奈良時代のスペシャリストである帝塚山大学の牟田口章人教授をお招きして、8世紀に聖武天皇と光明皇后を結びつけた愛、そしてその愛の結晶として残された財宝の美麗さについてお話を伺います。

【詳細】

8世紀、フランスでシャルルマーニュが活躍した頃より少し前、日本に聖王がいました。聖武天皇は、日本で最も有名な寺院、奈良の東大寺を建てた天皇として有名です。

東大寺には聖武天皇と光明皇后が遺したふたりの私的な宝物をはじめ、数千点の8世紀の遺品が、1200年前の色と輝きを失わないまま伝えられてきま した。衣類・楽器・化粧道具から武器に至るまで、当時の高度な文化を知ることが出来る正倉院宝物は世界史の奇跡といって良いでしょう。

現在は天皇家の管理となる宝物が遺されたのには理由があります。宝物と共に残るリスト。その最後に光明皇后の赤裸々な心が綴られています。

「この宝物は、夫の愛した品々でした。手元にあれば、過ぎた日が思い出され、涙が留まる事がありません。ここに、宝物すべてを仏に捧げ、夫が天に召されんことを願い奉ります・・・。」 _ この亡き夫への尽きせぬ愛と哀しみが至宝を今日に伝えた、といえるでしょう。宝物を納めた東大寺の近くにある木造の「正倉院」と呼ばれる巨大な倉庫も当時のままに残り、日本の国宝に指定されています。

正倉院に伝わった宝物=正倉院宝物は、毎年秋の2週間だけ、正倉院に近い奈良国立博物館で開催される展覧会で公開され、1日15 000を超す人々が見学に訪れます。しかし、保存の見地からこの期間以外、宝物は原則見ることができません。

講演では、ハイビジョン映像で宝物の細部にわたるまで紹介するとともに、洋の東西や歴史の違いを乗り越えて今なお私達の心を打つ、8世紀に生きた夫と妻の愛の物語を、もっとフランスの方々に知ってもらいたい、と思います。

(会場には古代から最高のお香とされている沈香を焚きしめ、1世紀あまりにわたって制作されてきた正倉院宝物のレプリカも置き、日本の古代文化への理解を深めたい、と考えています。)

【講師:】 牟田口 章人(むたぐち あきと) 帝塚山大学文学部教授
民間TV局の文化番組プロデューサーとして、30年余りにわたって正倉院宝物の取材を続け、多くの番組を制作。一昨年にはハイビジョンによる正倉院宝物全集10巻(収録宝物500件)を出版。