日仏交流俳句コンクール『離れていても』
―withコロナで頑張る世界に俳句でエール―

 

世界中が新型コロナウイルスに翻弄され1年が経過した今も、フランスの美術館や文化施設は長い休業を強いられています。芸術文化を愛するフランスの人々にとって、辛い状況が続いています。

こういった中、パリ日本文化会館(以下MCJP)が開催した「日仏交流俳句コンクール『離れていても』withコロナで頑張る世界に俳句でエール」は、現状に素早く対応したイベントとして注目され、多くの参加者を集めました。

2020年8月4日から10月16日にかけて、日本語とフランス語の俳句、約1,700句が寄せられました。日本からはもちろん、フランス、ベルギー、スイス、コートジボワールといったフランス語圏の国々だけでなく、ルーマニア、マレーシア、アメリカなど、31カ国もの国々から参加がありました。

応募作品は、「日本語部門」「外国語としての日本語部門」「フランス語部門」の3つの部門に関し、それぞれ「一般」「中高生」「小学生以下」に分けられ、3部門・9カテゴリーについて審査が行われました。

審査は日仏4名からなる審査員により行われ、各カテゴリーについて審査員賞3句が選ばれました。また、審査員によって事前選考された作品に関し一般投票が行なわれ、各カテゴリーで最も票を集めた句に「みんなの一句」賞が贈られました。

合計31句の受賞作品は、日本語とフランス語に翻訳され、2021年1月29日、インターネット上で公表されました。自作の句を応募して参加した人、一般投票に参加した人、日本から、フランスから、そして世界中から、さまざまな人がオンラインという場で交流し、心を通わせたイベントとなりました。

受賞した方々の声をご紹介します。

フランス語部門、小学生以下の部で審査員賞を受賞したリナ・レキックさん(CM2 、小学5年生相当)は、とても誇らしげでした。実は、最初は全然興味が湧かず、「俳句の作り方なんて学んでも意味がない」と思っていたそうです。

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Au temps du virus
les heures comptent des jours
Chaleur étouffante

ウイルスの 日々長くして 蒸し暑い

「最初に作った句を、もっと適切な表現がないかと工夫して作りなおすうちに、だんだんと面白みが湧いてきました。俳句はとても小さな詩ですが、小さい中にたくさんの気持ちを込められるところが面白いです。これからも俳句を作り続けたいと思います」と、今では俳句が好きになったようです。

レキックさんは授業の一環として俳句コンクールに参加していました。授業に俳句を取り入れ、コンクールに応募したのは、パリ17区ブルソー小学校のジェローム・ラバ先生。先生にとっても俳句を作るのは今回が初めてで、授業に取り入れるのも初の試みでした。

「教員向けのメルマガを見た同僚の紹介で、俳句コンクールの情報を見つけました。昨年春、ちょうどフランスが最初の外出制限(ロックダウン)を実施していた時期だったので、オンラインで参加するイベントというところに注目したのです」と、ラバ先生は答えてくれました。生徒たちに教える前にまず自分が俳句を理解せねばならず、その研究と準備にMCJPのイベントサイトが役に立ったと言います。

「生徒たちにとっては新しい体験でした。最初はとても短いので簡単だと思いますが、そうでないと気づきます。俳句では、アイデアを形にしなおし、五・七・五にするために言い換える言葉を探すことが必要になります。短くて、とても詩的で、比喩に富んでいて、美しいこの詩を作ることを楽しんだ生徒もいました」(ラバ先生)

外国語としての日本語部門、一般の部で審査員賞を受賞したのは、ITエンジニアのバチスト・コランさんです。

ツバメ達 飛んで踊って 窓裏で
Hirondelles en troupe
Elles volèrent, dansèrent
par-delà les vitres

コランさんはMCJPの会員で、当館で開催される演劇や展覧会、ワークショップなどをくまなくチェックし、いつも楽しみにしているMCJPの大ファンです。2018年には、「Japan Workshop」というMCJPが主催する訪日プログラムに参加し、日本企業や大学を視察しました。「Japan Worlshop」は、2014年の発足から毎年、日本に関心を持つ優秀なフランスの人材に対し、日本の産業界の最前線を訪れる機会を提供しています。暗号通貨に関する日本の法律研究で参加が認められたコランさんは、この経験から日本経済の理解を深め、かつ、貴重な人脈を得ることができたと語ってくれました。

「俳句コンクールがあることをまずMCJPで知り、その後に毎週通っている日本語教室の先生からも教えてもらいました。イベントのキャンセルが続いていた時期に、オンラインで参加できたので挑戦することに。俳句を作ったのは生まれて初めてでしたが、日頃ツイッターで短いテキストを工夫している私にとって、非常に興味深い経験でした」と、バチスト・コランさん。

俳句の魅力をたずねると、「構築的で論理的なヨーロッパの文学芸術とは対照的に、自分が覚えた感覚をいじりすぎずそのまま切り取り、形に残すような感覚があります。美しさだけがそこにある、それが私にとっての俳句の魅力です」と語ってくれました。

コランさんの句は、ポエジー(詩)の国フランスの俳句らしく、韻を踏んでいます。「私自身の文化的背景が現れていて、気に入っている箇所です」と、嬉しそうに話してくれました。

日本語部門、一般の部で審査員賞を受賞した佐藤昭子さんは、愛媛県松山市の愛光学園で古文の教師として教鞭を取る傍ら、10年来、結社に所属し俳句を詠む愛好家です。

蔓薔薇や 母に食事を 置き帰る
Repas déposé
chez ma mère, puis je rentre
Le rosier grimpant

「2019年に初めてパリを旅行して以来SNSなどでフランス情報を集めるようになり、その中で今回の俳句コンクールを知りました。フランスで俳句コンクールが開催され、大勢の参加があったことを、俳句愛好家の1人としてとても嬉しく思います」と、佐藤さん。地元・松山市で開かれている高校生向け俳句コンクール「俳句甲子園」に多くの生徒を参加させてきたという背景があるからでしょう、フランスで俳句が親しまれていることにも感激した様子でした。

「日本文化を海外に紹介することは、明治時代に開国しヨーロッパから新しい文学形式を学んだ日本が、今できる恩返しだと思っています。『座の文学』と呼ばれる俳句の、仲間同士の鑑賞の作法や面白みも伝える機会があればいいですね。そのためにもフランス語で句を詠むことを目標に、大学時代に学んだフランス語を再学習しています。今回素晴らしいフランス語に翻訳された自作の句に対面できたことは、貴重な学びになりました」(佐藤さん)

MCJP館長事務代理の姫田美保子さんは、俳句コンクール開催の意図をこう語ってくれました。「不安が募る新型コロナの外出制限の中で、文化で何ができるだろうかと考えて企画したのが、この日仏交流俳句コンクールです。人と人が会えない中、俳句を通じてオンラインで思いを分かち合う場を設け、人と人をつなげ、心を温めたり、勇気づけたいと思ったのです」

その願いが叶えられたことを、今回集まった1,700句の俳句、そして受賞者たちの声が教えています。

 

(取材・文:Keiko Sumino-Leblanc / 守隨亨延)

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基本情報
事業名:「日仏交流俳句コンクール『離れていても』-withコロナで頑張る世界に俳句でエール」
主催:パリ日本文化会館、協力:パリ日本文化会館・日本友の会
黛まどか(俳人)、Nicolas Grenier ( 詩人 )、Christian Faure ( 紫木蘭俳句会 同人)、川崎康輔(Association “Haikuman 575”)
受賞作品はこちらからごご覧ください。