パリ日本文化会館は、子ども浮世絵(*)や書籍約140点の資料の展示を通じ文明開化により変化する日本社会の様子とその中で学び遊んだ子どもたちの姿を紹介する「文明開化の子どもたち」展を、町田市立国際版画美術館との共催にて実施いたします。
(*)子どものために作られたおもちゃ絵や教育錦絵、また子どもが描かれた浮世絵
19 世紀後半の明治時代は、西洋の文化・風俗との出会いにより日本の社会が大きく変わった時期にあたります。名称を「東京」へと改めた街には洋風建築や洋装の人びとが登場し、急速な近代化が進められました。子どもの生活も例外ではなく、西洋式の学校教育が導入されるなど、今日へと繋がる新たな「学び」のかたちが模索されます。一方でまだ裏通りには江戸の香りが残っていた時期。昔ながらの「遊び」の世界も、彼らの生活を鮮やかに彩り続けました。本展では、新旧の共存する 19 世紀後半の子どもの「学び」と「遊び」を、色彩豊かな浮世絵を通して紹介します。
浮世絵には風景画や美人画といった鑑賞性の高い作品のほか、本展で紹介するような「教材」や「おもちゃ」など実用性に富んだ作品も多数制作されました。今日紹介される機会の少ない分野ですが、当時の子どもの日常やその成長を見守る大人たちのまなざしを今に生き生きと伝える貴重な資料です。
本展は、2017-18 年に日本で開催された展覧会の内容を、フランスの鑑賞者に向け再構成したもので、町田市立国際版画美術館及び公文教育研究会の所蔵作品にて構成されます。未来への希望をのせた教育錦や、夢を育むおもちゃ絵や物語絵など、約 140 点を展観。明治期の日本の好奇心を身近に感じていただく機会となれば幸いです。
【展示構成】
プロローグ 明治・日本へようこそ!
明治時代になると、街中には文明開化により洋風建築や洋装の人びとが登場。本章では、西洋文化と出会い変わりゆく都市や人々の様子を、色鮮やかな浮世絵を通してご覧いただきます。
第1 章 浮世絵で“学ぶ”
明治 5 年の「学制」の公布に伴い、子どもたちの学びの場は従来の「寺子屋」から西洋の スタイルに倣った「学校」へと移ってゆきます。本章では、明治期にはじまった学校教育の様子と、教材として用いられた教育錦絵を紹介します。
第2章 浮世絵で“遊ぶ”
江戸から明治にかけ、浮世絵は子どもにとってのおもちゃでもありました。手遊びに用いられたおもちゃ絵、かわいい動物や物語の登場人物、おばけなど、愛すべきキャラクターが描 かれた物語絵は、手にしながら自ずと知識や想像力を育むものとして親しまれました。
第3 章 子どもたちへのまなざし
明治期に優れた子ども絵を残した 4 名の絵師―周延、月耕、春汀、昇雲―を紹介します。 子ども絵は、子宝を願う吉祥画題として中国よりもたらされ、江戸期の浮世絵において身近な子どもたちの生活を描くジャンルとして発展しました。江戸懐古の風潮が高まった明治末期の浮世絵には、昔ながらの遊びに興じる着物姿の子どもたちが描かれ、どこか懐かしく愛らしい姿が人気を博しました。なかには版元名が英文で印刷されているものもあり、遠く欧米の鑑賞者に届けられたこともわかります。いずれも木版画の高い技術を尽くした魅力的な作品が多く、浮世絵がメディアとしての役目を終える 20 世紀初頭に至るまで、子ども絵が人気のジャンルであったことがうかがえるでしょう。
エピローグ ビゴーのみた日本
最後に、変わりゆく近代日本を見つめ描いたフランス人画家、ジョルジュ・ビゴー(1860- 1927)の作品を紹介します。江戸期の浮世絵にあこがれ明治 15 年(1882)に来日したビゴーは、近代化とともに変貌を遂げる日本を時に厳しくみつめたことで知られます。その作品 は、浮世絵とは異なる視点で往時の生きた日本像を今に伝えています。