パリ日本文化会館は、2012年で設立15周年を迎えます。これまでの大きなご支援に感謝し、15周年を笑顔で祝うため、パリ日本文化会館では2012年のいくつかの主要な事業を「笑い」というテーマで展開します。春には、現代日本の「ユーモア」「パロディ」をテーマに、主に若い世代の作家たちの作品を中心とした映像作品展を開催します。また秋の展覧会では、古代から19世紀にかけての日本の伝統美術にみる、さまざまな「笑い」の形を紹介します。
めでたいこと、喜ばしいことだけでなく、ばかげたことや道理に合わないこと、ブラックユーモアや社会批判に至るまで、さまざまな「笑い」の形があります。日本人にとって「笑い」とは何か? 東京と大阪のあいだでも笑いの文化は違うのか? 本展で紹介する9人の現代アーティストの作品の中に、そのヒントが隠されています。来場の皆様に、大いに笑っていただけることを願っています。
(本展出品作家および作品は、展覧会アドバイザーの原久子氏によって選定されました。以下の解説文は原氏のテキストに基づき再構成したものです)
映画監督でもある石橋義正の短編ドラマ「OH! Mikey」は、転勤でアメリカから日本にやってきたフーコン家の息子マイキーを中心に繰り広げられる登場人物がすべてマネキン人形のドラマです。静止したままの人形がときには笑顔のまま毒を含んだ不条理なやりとりを展開させてゆく“ブラックコメディ”です。
倉重迅はビデオ作品「Tank and Potted Flower」において、塩化ビニール管で実物大の戦車を組み立てていくプロセスを撮影、早送りで上映します。威力のない骨組みだけの戦車をどこにでもいるような少女たちが組み立てていきます。
森村泰昌は名画のなかに自身を登場させる作品や銀幕のスター女優に扮する作品などさまざまなシリーズで高い評価を得ています。「独裁者を笑え/スキゾフレニック」では、チャップリンの名作映画「独裁者」の主人公を演じて私たちを笑いに誘います。21世紀の独裁者の悲哀を笑うこの作品は、多様な笑いを重層的に含んでいます。
トースティーは、ミュージックビデオふうのポップかつアイロニーに満ちた作品を制作し続けています。日本人である作家本人が「両手がフランスパン(バゲット)の女」となった「バゲット・バルドー」は、女優ブリジッド・バルドーへのパロディ、かつオマージュでもあるシリーズ作品です。
ベルリンを拠点に活躍する田口行弘の作品は、日用品や家具、スタジオの床板までが動く古典的なコマ撮りアニメーション映像でありながら、「場」が躍りだすようなダイナミックさを含み、観る者を楽しませてくれます。
泉太郎は、フレームの内側と外側を使う、あるいは「虚」と「実」の像を用いるなど、映像の特性を用いて作品を「遊び」にしてしまいます。脱力してしまいそうな映像作品は、子どもの遊びの延長のようにも見えますが、それを真剣にやってのける真面目さもあります。
榎本耕一の作品は、コンドルのJoeyとパンダのMarqueeのどたばたコメディ。シナリオや場面の展開はなかなか簡単には読めず、人形を用いた実写、ゲーム、手描きアニメーションなど、私たちの日常に溢れている表現メディアを巧みに取り入れて映像を構成しています。音声もドイツ語、中国語など複数言語が取り入れつつ、発声しているのはEラーニングサイトであり、いかにも現代的なつくりとなっています。
田中偉一郎の作品「ラジオ体操アドリブ」では、日本では老若男女誰もが振り付けを知る「体操」を、群衆のなかで一人が勝手にアドリブの動きをつけています。一糸乱れぬ群衆の動きの中に異物が放り込まれることで起こる周囲の戸惑いは想像するだけでもおかしく、またそれを観てみぬ素振りで体操を続ける群衆にも又おかしみを感じます。いつもの目線をずらすことで、違った世界が見えてくるかもしれない、そんなことを真面目に考える作家です。
鈴木淳の『だけなんなん/so what?』シリーズは、身の回りの風景や出来事を撮影したシリーズですが、繰り返し行なわれる行為はその部分だけ切り取られるだけで、意味もなくおかしかったりします。長回しの定点撮影中に予想外のことが起きるなど、時には偶然性も彼の作品のなかでは大切な要素となっています。
関連企画
シアタープログラム 澤隆志氏が選定。本展会場内での上映のほか、2012年4月7日(澤氏来場)および5月19日の各日、15時および17時に当館小ホールにて上映会を実施します。
<Blaise>プログラム
Hietsuki-bushi ひらのりょう/ビデオ/4分/2011
He may solve the problem by using his logic. 能瀬大助/ビデオ/12分/2006
Lost & Found 山本麻紀子/ビデオ/40分/2011
ホリデイ ひらのりょう/ビデオ/14分/2011
<Alfred>プログラム
純情スケコマShe 玉野真一/8ミリ(ビデオ版)/15分/2002
BRAIN ASH 鈴木智晴/ビデオ/8分/2007
ニコトコ島 大力拓哉、三浦崇志/ビデオ/47分/2008
上映会日程
4月7日(土)(澤隆志氏来場)
15時 <Blaise>プログラム/17時 <Alfred>プログラム
5月19日(土)
15時 <Alfred>プログラム/17時 <Blaise>プログラム
原久子氏講演会
2012年3月28日(水)18時30分~20時
入場無料
会場 : 小ホール
使用言語:日本語講演・仏語逐次通訳付き
所要時間 : 約1時間30分
講師紹介:原久子(大阪電気通信大学デジタルアート・アニメーション学科教授)氏は、本展示では出品ビデオ作品の選定を担当しています。澤隆志氏も来場。
ニュイ・デ・ミュゼ(美術館の夜)
2012年5月19日(土)にフランス全土で実施される「ニュイ・デ・ミュゼ(美術館の夜)」に参加します。18時~23時まで入場料無料となります。