日本を代表する現代美術作家である杉本博司氏は、ジャコメッティ財団での展覧会「Giacometti and the Noh by Hiroshi Sugimoto」の開催を記念して、日本の優れた舞台公演をオンラインで紹介する国際交流基金のプロジェクト「STAGE BEYOND BORDERS –Selection of Japanese Performances-」で製作された前近代を再現し、「時間・歴史・人間の意識」をテーマとする杉本芸術の壮大な世界観を提示する映画「Noh Climax」の上映とともに、杉本氏のトークを行います。



■ 上映作品

Noh Climaxシリーズ『翁』『神』『男』『女』『狂』『鬼』(全60 分/フランス語字幕付き)

映像製作・著作:杉本博司・国際交流基金 制作協力:公益財団法人小田原文化財団・姫路市立美術館



■「Noh Climax」シリーズ 杉本博司 ディレクターズノート:

私は前近代を見たいと思う。自然の光の中で、自然とともに舞い、自然とともに奏でていた頃の姿を。電気は芸能から気を奪ってしまった、気を撮り直さなければいけない。

その昔、能は五番立てで舞われていた。日が昇り、「翁」という神事のあと、朝日を浴びて始まり、夕闇の迫る頃、終った。神 男 女 狂 鬼 がその五番。

演劇は劇的でなければならない。人間の性(さが)を五つの性に演じ分ける。曙のうちに神が顕れ、男と女は絡み、狂気が襲い、異界の鬼が現れて終わる。

室町から桃山の場が与えられたとせよ。姫路城と圓教寺。昔のままの佇まい、昔のままのその気配。昔のままのその空気。

古面も与えられたとせよ。能を古面と舞う、能古面(ノーコメン)と、すばらしい。

万媚、小面、痩男。平太、神体、白式尉。そのあと中将も続きます。

なにからなにまで昔の通り、なにからなにまで昔の姿、なにからなにまで昔の響き。なにからなにまで昔のこころ、なにからなにまで昔のほうがよかったな。

© SUGIMOTO Hiroshi and The Japan Foundation (JF) All Rights Reserved


□□□


杉本博司

1948年東京生まれ。1970年に渡米、1974年よりニューヨーク在住。活動分野は写真、建築、造園、彫刻、執筆、古美術蒐集、舞台芸術、書、作陶、料理と多岐にわたり、世界のアートシーンにおいて地位を確立してきた。杉本のアートは歴史と存在の一過性をテーマとし、そこには経験主義と形而上学の知見をもって西洋と東洋との狭間に観念の橋渡しをしようとする意図があり、時間の性質、人間の知覚、意識の起源、といったテーマを探求している。作品は、メトロポリタン美術館(NY)やポンピドゥセンター(パリ)など世界有数の美術館に収蔵。代表作に『海景』、『劇場』、『建築』シリーズなど。1988年毎日芸術賞、2001年ハッセルブラッド国際写真賞、2009年高松宮殿下記念世界文化賞(絵画部門)受賞。2010年秋の紫綬褒章受章。2013年フランス芸術文化勲章オフィシエ受勲。2017年文化功労者。2023年日本芸術院会員に選出。